16.心因性めまい

(Psychogenic vertigo)

1.疾患概念

 心因性めまいには器質的あるいは機能的なめまい疾患があり,それに心因性反応が合併する場合と他のめまい疾患がなくて心因性反応によって発症する場合とがある。前者は血圧変動のめまい,頸性めまいなどの中にもみられる。以下後者について述べる。

2.病歴からの診断

 1)めまいは回転感,動揺感,眼前暗黒感など不定で時に平衡失調も訴え多彩である。発作は瞬間的,数秒間にみられるが持続的に訴えることが多い。
 2)随伴症状は耳鳴(両側が多い),耳閉塞感,頭重感じ,肩こり,不眠,身分がすぐれない,脱力感など自律神経症状や精神的不定愁訴が多いが難聴は少ない。
 3)他の器質的あるいは機能的めまい疾患を除外する。
 4)めまい発症には心因的契機または誘因がある。
 5)1),2)の症状は時期的に関係のないことが多い。

 1),2),3)の条件を満たせば心因性めまいを疑う。

3.検査からの診断

1)平衡機能検査,神経学的検査で異常所見がないか,あっても誇大化された異常所見や異常所見間に説明し難い不一致がある。

2)各種の心理テストで心因性反応を思わせる異常所見がある。

3)補助検査としてのアドレナリン負荷平衡試験(檜法)でA型(心身症と見なされる),B・C型(不安神経症,うつ病,ヒステリーに多い)の所見が得られる。

 2の1)〜3)と3の1),2)の条件を満たせば心因性めまいを考えて精神神経医や心療内科医と相談する。

4.鑑別診断

 詐病としてのめまいとの鑑別が大切である。経験的に,
 1)身体動揺が他の四肢の偏倚に比べて極めて大きいか,全く説明つけ難い不一致がある。
 2)重心動揺を記録しながら暗算など stress interview で動揺が変動する。
 3)起立時の下肢筋の EMG の所見と動揺が一致しない。
 4)「これから苦しい検査を行います」というと患者が「やめてくれ」という。
 5)短時間に繰り返し同じ検査をしても異常所見に再現性がない。
 6)心理テストで心因性反応の異常所見が少ない。
などの場合,詐病を疑うが,心因性めまいとの鑑別は慎重でなければならない。

5.病期の判定

 精神神経科医や心療内科医と相談する。

6.予後の判定

 一般に治療を抵抗する症例が多く,治療は長時間かかる。アドレナリン負荷平衡試験A型はその傾向がつよい。

7.疾患についての説明

 心因性めまいには,
1) 心身症のめまい
2)不安神経症,心気症のめまい
3)仮面うつ病のめまい
4)ヒステリーのめまい
などが含まれる。これらは静的および動的身体平衡の無意識的な心身の精神的・自律神経障害である。診断にあたっては心理的障害,心因性反応,心因性自律神経障害などの心理的原因を精神神経科医,心療内科医と相談して調べることが必要である。
 心理テストとしては,
1)質問紙法(CMI,Y-G,SDS,MAS,宮城法の性格テストなど)
2)投影法(PF-study,ロールシャファー法,SCT,TAT など)
3)作業検査法
などがあるが,臨床的簡便法として CMI(不安神経症,心身症),SDS(うつ病),Y-G,性格テスト(ヒステリー)を用いることが多い。

文献

1)檜  学:心因性めまいの診断―神経耳科学的アプローチ.時田 喬,他編,神経耳科学(V),診断と治療,266-280頁,金原出版,東京,1986
2)檜  学:現代の耳鼻咽喉科学.285-287頁,金原出版,東京,1979
3)筒井末春:成人病シリーズ14,低血圧症―初診から治療管理まで―.医学図書出版,東京,1979
4)筒井末春:心療内科領域におけるめまい.耳鼻臨床70 増4:1476-1486,1977
5)池見酉次郎:現代の心身医学.33-34頁,医歯薬出版,東京,1976