15.頸性めまい

(Cervical vertigo)

1.疾患概念

 頸部に原因があり,多くの場合頸部の回転または伸展により生じるめまいを意味する。その原因に関しては,頸部の骨,筋,靱帯の異常によるもの,椎骨動脈,椎骨動脈周囲の交感神経線維などにあるとされるが,いくつかの原因が重なったり,連続して起こることも多く,めまいの他多彩な症状を伴うことも少なくない。

2.病歴からの診断

 1)頸部の回転または伸展によって起こる各種のめまいを訴える。
 2)めまいは一定の頸部運動により反復性に起こり,その頸部運動を継続すると次第に減弱することが多い。
 3)頸部以外にめまいの原因となる障害が認められない。
 4)めまいの他,頭痛,項部痛,嘔気,冷汗,その他各種の不定愁訴を訴えることがある。
 5)過去に機能的または器質的頸部損傷の既往歴があったり,頸椎異常を指摘されたことがあったりする。
 6)現在頸椎異常,頸骨脳底動脈循環不全,Barre-Lieou 症候群,むち打ち症などの診断を受けている。

 1)〜3)があれば頸性めまいを疑う。

3.検査からの診断

1)直立障害:頸部運動により生じる動揺の増大,転倒傾向
2)頸部運動に伴う異常眼球運動の出現
3)自律神経異常
4)椎骨脳底動脈循環不全の証明
5)頸椎レ線写真上 spondylolysis,osteophyte の存在,椎間孔狭窄などを認める。
6)Adson 徴候,bruit など内科診断学的所見,Schellong 試験成績などを参考にする。
7)collar test : polyneck の適正な装着により頸部痛の減少,平衡機能の改善をしめす。
8)その他,温度眼振異常(一側性 CP または DP),視運動眼振異常,視標追跡能低下,VOR,VVOR の異常(gain 低下,位相の遅れ)などをみることがある。

4.検査からの診断

 1)頸部運動によるめまいが減衰傾向を示すものは一般に予後がよい。
 2)原疾患の程度。
 3)立ち直り反射異常が著明なものは予後がよくない。
 4)視運動眼振解発状態をみる。

 〔注〕上記の諸要素を考慮した判定基準は,本疾患の多様性を考慮すると,必ずしもクリアカットにはいかないであろう。

5.説明

 頸性めまいは,1926年,Barre が cervical arthritis によって誘発されためまいとして発表したものが最初で,今日 Barre-Lieou 症候群と呼ばれている。
 1955年,Ryan & Cope が頸椎異常,特に spondylolysis に起因するめまいに対して cervical vertigo なる名称を与え,それ以後,本名称が使われるようになったとされる。
 本症は,その起源から3種類に分けて考えるのが妥当とされる。
 1)感覚性:頸椎骨棘形成により後根圧迫症状を生じた場合である。筋,関節受容器に影響を及ぼす場合もある。
 2)椎骨動脈起源:頭部回転により椎骨動脈圧迫または閉塞が生じる場合である。
 3)交感神経性:椎骨動脈表面を囲む交感神経繊維に対する影響により,いわゆる Barre-Lieou 症候群を生じる場合である。
 疾患の病期の判定は困難な問題であり,原疾患との関係において判定する必要があるが,臨床的には,
 1)前駆期:頭痛,項部痛,嘔気,手足の冷感,異常感などを訴える時期
 2)活動期:頸部運動によりめまい,ふらつきなどを生じ,各種検査成績に異常を認める時期
 3)緩解期:めまいはあまり起こらないが,頭位変換眼振や頭振眼振は存在する時期
のように分けることができよう。
 本症の起源は症例によって異なるので,単一疾患としてでなく,症候または症候群として考えていく必要がある。

文献

1)Barre JA : Sur un syndrome symphathique cervical posterieure et sa cause frequente : I’arthrite cervicale. Rev Neurol 45 : 1246-1248, 1926
2)Cope S, Ryan GMS : Cervical and otolith vertigo. J Laryngol Otol 73 : 113-120, 1959
3)Hulse M : Die differential diagnostische Auswertung des Zervikalnystagmus. HNO 30 : 192-197, 1982
4)Moser M, Simon H : Der Cervikalnystagmus als objektiver Befund beim HWS-Syndrome und seine Beeinflussbarkeit durch Manualthe repie. HNO 25 : 255-268, 1977
5)Ryan GMS, Cope S : Cervical vertigo. Lancet 2 : 1355-1358, 1955


〔補遺〕

頭頸部外傷後のめまい

(Vertigo following head and neck trauma)

 頭頸部外傷は,その受傷部位や受傷様式の多彩さ,複雑さにより頭部外傷といわゆる鞭打ち損傷とに明確にわけることは難しい。
 頭頸部外傷後のめまいは頭頸部外傷後遺症の主たる症状の一つであり,受傷直後の即発性と受傷1〜3カ月後からみられる遅発のものとに分けられるが,後者の方が多い。
 頭頸部外傷のうち,側頭部外傷では側頭骨骨折,迷路振盪症,鼓室外傷などがあり,即発性めまいのみられる場合その診断は簡単にできることもあるが,遅発性めまいの場合は後遺症として他の臨床症状(耳鳴,難聴,耳出血,髄液漏など)や検査所見と合わせて診断する。
 頭部外傷後のめまいは,
 1)回転感,動揺感が多く,比較的治りやすく
 2)めまいを客観化しうる他覚的所見の得られることが多い
が,鞭打ち損傷のめまいは,
 1)眼前暗黒感,動揺感が多く,概して治りにくく
 2)めまいを客観化しうる他覚的所見が得られること
 が少なく,非前庭性要因によるものもみられる
 頭頸部外傷後のめまいの障害部位としては,末梢迷路,中枢,頸部があり,病因としては,器質的障害,機能的障害あるいは心因性によるものが考えられるので,これらの点を考慮して診断する。もとより一元的障害より多元的障害で説明しなければならぬものの方が多い。本症には詐病によるめまいの訴えもあるので,その診断には充分慎重でなければならない。