12.聴神経腫瘍

(Acoustic tumor)

1.疾患概念

 聴神経腫瘍は,内耳道内の第8神経の Schwann 鞘より発生する神経鞘腫で,前庭神経起源の腫瘍が蝸牛神経起源の腫瘍より頻度が高い。
 本来は内耳道内に発生するため,臨床的には,内耳道内の臨床症状を示すが,腫瘍が増大し,内耳孔より小脳橋角部に進展し,小脳や脳幹を圧迫するとそれぞれの神経症候を呈する。
 その早期診断は治療上重要であるため,早期診断を中心に示す。

2.病歴からの診断

1)聴覚症状
 @ 中年以後にみられる,次第に進行する一側性の原因不明の感音難聴,耳鳴,時に耳閉塞感に注意する。
 A 時に急性の感音難聴の臨床症状を示すため,突発性難聴との鑑別が重要である。

2)前庭症状
 多くの場合は浮動性めまい,あるいは急に身体を動かした時にみられる一過性の不安定感などで,回転性めまい発作は比較的少ない。

3)その他の脳神経症状
 顔面神経麻痺で初発することは稀。

1),2)の条件を満たせば聴神経腫瘍を疑う。

3.検査からの診断

 1)純音聴力検査で一側性感音難聴
 2)後迷路性難聴の所見
 3)聴性脳幹反応の異常
 4)温度性眼振反応の低下
 5)X線検査で内耳道の拡大
 6)X線 CT,air X線 CT,MRI にて腫瘍の明視化

1)〜4)の機能検査で高度の疑いをもち,5),6)の検査で腫瘍が明視化されれば診断は確定する。

4.鑑別診断

1)突発性難聴
 聴神経腫瘍は時に急性感音性難聴として発症することがあるので,突発性難聴との鑑別が必要となる。鑑別の要点は,めまいの既往がなくて,温度眼振が高度低下の場合,また内耳道拡大の所見がみられたとき。

2)小脳橋角部腫瘍
 聴神経腫瘍以外の小脳橋角部腫瘍との鑑別には,X線 CT が役立つ。また,その場合は,内耳道の拡大はみとめられない。

3)神経血管圧迫症候群
 air X線 CT にて腫瘍が否定され,血管走行に異常を認める。

5.病期の判定

 1)内耳道内に限局している時期
 感音性難聴,温度性眼振反応の異常,内耳道拡大,air X線 CT にて内耳道内腫瘍の明視化。
 2)小脳橋角部に2cm位進展した時期
 臨症症候,上記1)と本質的にはかわりない。ただ,X線 CT にて後頭蓋窩の腫瘍が明視化される。
 3)小脳橋角部に3cm以上進展した時期

 上記1),2)の臨症症状の他に,歩行障害,左右側方注視眼振の出現,視運動性眼振や視標追跡検査の異常など,その他,三叉神経の症状として角膜知覚の異常,さらに,腫瘍が拡大すれば小脳失調,嚥下障害などがみられることがある。
 腫瘍の大きさの判定にはX線 CT,MRI が役立つ。

6.予後判定基準

 予後判定は腫瘍の大きさ,および機能異常の程度による。すなわち,聴力検査所見,平衡機能検査所見,あるいは神経放射線学的所見などで決める。

7.疾患についての説明

 聴神経腫瘍は内耳道内の,主として前庭神経より発生する良性腫瘍で,蝸牛神経由来の腫瘍は少ない(10%以下)。腫瘍は内耳道内に原発し,増大すれば内耳孔より後頭蓋窩に進展する。その早期症状は,内耳道内の前庭神経症状,蝸牛神経症状が主で,顔面神経症状は少ない。すなわち,一過性のめまい感,不安定感,難聴,耳鳴,まれに耳閉塞感がある。その早期診断には病歴上,次第に進行する一側性の感音難聴,一過性のめまいなどを注意する。
 難聴は,時に急性に発症することがあり(約10%),突発性難聴との鑑別が必要であるが,内耳道拡大の有無,X線 CT などが役立つ。
 機能検査上は,一側性感音性難聴,後迷路性難聴の所見,温度性眼振反応の高度異常などは,聴神経腫瘍を疑う所見となる。近年,温度眼振反応の比較的良好な症例の存在も指摘されており,また,聴力障害の軽度な時期に診断のされる症例も多くなったが,この場合,聴性脳幹反応(ABR)の異常(無反応,T−X波の潜時の延長,U波以後の波形の消失など)は、聴力の比較的良好な症例に対しても90%以上にみられる所見である。
 内耳道内腫瘍の確定診断は,上記の機能検査の異常にて腫瘍の存在を疑い,X線学的に内耳道の拡大,air X線,CT,MRI などで腫瘍の存在を明視化することである。
 腫瘍が内耳道内を充満し,内耳孔より小脳橋角部に進展すると,腫瘍による小脳や脳幹の異常としての歩行障害,左右側方注視眼振の出現,視運動性眼振や視標追跡検査の異常などが出現する。

文献

1)Pool JL, Pava AA, Greefield EC : Acoustic Nerve Tumors. Chales C, Thomas, 1970
2)Portmann M, Sterkers JM, Charachon R, Chouard CH : The Internal Auditory Meatus. Churchill Livingstone, 1975
3)House WF, Luetje CM : Acoustic Tumors. Vol I Diagnosis, Vol II Management, University Park Press, 1979
4)小松崎篤:内耳道病変の臨床.東京医学社,1987


〔補遺〕

鑑別すべき小脳橋角部病変
―神経血管圧迫症候群―

(Neurovascular compression syndrome)

1.疾患概念

 元来顔面痙攣については顔面神経と血管が,三叉神経痛については三叉神経と血管が小脳橋角部において接触しており,これらを剥離減圧することにより,それぞれ顔面痙攣や三叉神経痛が治癒することが多いことからこの疾患の概念は出発している。そして第8脳神経についても血管が神経を圧迫していることにより,耳鳴・難聴・めまいが起こったとする症例が報告されるようになった。しかしながら未だ世界的にみても報告例は少なく,明確な診断基準を作り得る状況には至っていない。

2.病歴からの診断

 病例によりメニエール病,突発性難聴,良性発作性頭位眩暈症などと似た症状を呈するので,本疾患に特徴的な病歴は今のところ確立されていない。
 上記各疾患の症状が保存的治療では治癒し難く,また患側に顔面痙攣を伴っている場合は,本疾患の可能性を疑って検査をすすめる。

3.検査からの診断

 グリセロールテストが陰性のメニエール病,椎骨動脈写や air X線 CT で動脈の異常走行が認められる場合,顔面痙攣を認める場合などは本疾患を疑う。

4.疾患についての説明

 疾患の概念の項でも述べた如く,第8脳神経についての神経血管圧迫症候群は未だ報告も少なく,診断基準を作成することは現状では困難である。従って上記に記した項目も,あくまで neurovascular compression の可能性を考慮した推定診断にすぎない。
 しかしながらメニエール病,突発性難聴,良性発作性頭位眩暈症,前庭神経炎等の原因が明確でない現状では,少なくとも neurovascular compression が,めまい・耳鳴・難聴の原因となり得ることは念頭に置く必要がある。