11.ハント症候群

(Hunt’s syndrome)

1.疾患概念

 ハント症候群は,
 1)耳介,外耳道及びその周辺,もしくは軟口蓋の疼痛と帯状疱疹
 2)難聴,耳鳴,めまい
 3)顔面神経麻痺
などの第7,8脳神経症状を来す症候群で,varicella zoster virus (VZV) の感染によるものと考えられている。

2.病歴からの診断

1)耳介,外耳道及びその周辺,もしくは軟口蓋の帯状疱疹
 顔面神経麻痺の発症前後,数日に起こる。疼痛を訴えるものも多い。

2)難聴,耳鳴,めまい
 難聴,耳鳴など蝸牛症状の出現率は非常に高い。めまいがみられる場合,ほとんど蝸牛症状を伴う。めまいの性状は一般に回転性で徐々に軽快する場合が多い。時に回転性でない時もある。

3)顔面神経麻痺
 一般に完全麻痺の比率が Bell 麻痺より高いとの報告が多い。

 1),2),3)の3主徴のいずれか1つの症状を欠く不全型ハント症候群もある事に注意

3.検査からの診断

 1)顔面神経機能検査(NET, ENoG, Schirmer-test, 味覚検査,アブミ骨筋反射等)
 2)耳介,外耳道の帯状疱疹の確認
 3)純音聴力検査で1側性感音難聴
 4)平衡機能検査
 自発眼振はめまい発作中麻痺性眼振,即ち健側向き水平,回旋混合性が多い。感染初期は患側向きの場合もある。温度性眼振検査では高度の CP を示す。最初,健側向きも DP もあるが,徐々に消失。CP は長期間(1年以上)続き,無反応の時は回復し難い。
 また,めまいを自覚しない症例でも CP を認められる症例があり注意すべきである。
 5)ウイルス検査
 VZV 感染の証明,補体結合(CF)反応によるペア血清の抗体価の上昇,同ウイルスに対する特異的 IgM 抗体価の上昇。

4.鑑別診断

1)ベル麻痺
 3主徴のいずれかを欠く不全型ハント症候群との鑑別が困難な場合がある。ベル麻痺の中にも VZV を含めたウイルス混合感染が認められ(3〜16%),ハント症候群の中にも VZV 感染の他に他のウイルス混合感染がみられるものがあり,従って両者の鑑別が困難なことがある。

2)Guillain-Barre 症候群,Melkersson-Rosenthal 症候群等
 いずれも症状から鑑別は容易である。

5.疾患についての説明

ハント症候群は,
 1)耳介,外耳道及びその周辺,もしくは軟口蓋の疼痛と帯状疱疹
 2)顔面神経麻痺
 3)めまい,耳鳴,難聴
など第7,8脳神経症状を来す症候群であり,帯状疱疹ウイルス,varicella zoster virus (VZV) の感染によるものと考えられている。
 上記1),2),3)の3主徴がみられる場合,完全型ハント症候群と容易に診断出来るが,この3主徴のいずれか1つを欠く不全型ハント症候群も多くみられ,この場合ベル麻痺との鑑別が困難な場合が多い。一般に感染を証明する為にはペア血清を採取し,補体結合(CF)反応によって抗体価の上昇を確認する必要がある。しかし,全例で有意の抗体価上昇がみられるわけではない。最近は,CF 抗体価と併せ,同ウイルスに対する特異的 IgM 抗体の測定が診断上重視されつつある。
 又,ハント症候群のウイルス感染は VZV 単独のものと他のウイルスとの混合感染もみられ,一方ベル麻痺においても VZV,単純疱疹ウイルス,アデノウイルス,インフルエンザA型ウイルス等の重複感染がみられ(3〜16%),特に不全型の場合は両者の鑑別を困難にしている。臨床的には現時点では不全型の場合は第7,8脳神経症状の存在の有無で診断せざるを得ない。

文献

1)小池吉郎,青柳 優:顔面神経麻痺の予後診断.顔面神経障害 基礎と臨床,108-114頁,1984
2)小林俊光,他:当科における顔面神経麻痺の受診動態―ハント症候群30例の検討を中心として.耳鼻25:175-179,1979
3)朴沢二郎,他:顔面神経と前庭平衡障害.耳鼻臨床60:291-296,1967
4)水越鉄理:Hunt 症候群(病因・病態と治療方針).顔面神経障害 基礎と臨床,224-238頁,1984
5)Proctor L, et al : Acute vestibular paralysis in herpes zoster oticus. Ann Otol Rhinol Laryngol 88 : 303-310, 1979