5.外リンパ瘻

(Perilymph fistula)

1.疾患概念

 外リンパ(髄液)が内耳窓ないし fissure ante fenestrum などから,鼓室腔へ漏出し,聴覚・平衡障害を生じる疾患である。同義語として内耳窓破裂,前庭窓破裂,蝸牛窓破裂,perilymphatic fistula, perilymph fistula, perilymphatic leak, roundwindow rupture などがある。この外リンパ瘻は,奇形,あぶみ骨手術,梅毒,外傷(圧外傷を含む)などで生ずるが,原因不明の特発性のものも多い。
 特発性外リンパ瘻は,手術により聴覚・平衡障害の改善が期待しうる数少ない疾患であり,その存在を念頭に置き,聴覚・平衡障害症例を診ることが重要である。

2.病歴からの診断

1)髄液圧,鼓室圧の急激な変動を起こすような誘因の後に耳閉感,難聴,耳鳴,めまい,平衡障害が生じた場合
2)外耳・中耳の加圧・減圧でめまいを訴える場合
3)高度難聴が数日かけて生じた場合
4)水の流れるような耳鳴,水の流れる感じのある場合
5)pop 音の後耳閉感,難聴,耳鳴,めまい,平衡障害などが生じた場合

 以上のうち1つでも有ると外リンパ瘻を疑う(厚生省特定疾患急性高度難聴調査研究班,昭和58年診断基準)。

3.検査からの診断

1)聴覚所見
 急性感音難聴:突発性が多いが,比較的急速に進行するものや,変動するものもある。純音域値はさまざまで,聴力型は水平型,高音漸傾型,低音障害型,谷型など様々。しかし発症初期には低音障害型が多い。recruitment は陽性。蝸電図検査の所見,予後判定基準は,ほぼ突発性難聴の蝸電図と変わらない。

2)平衡機能検査
 患側下頭位での頭位眼振(70%),頭位変換眼振(32.5%)が認められる。温度刺激検査は半数以上が正常(CP は20%,DP は15%,反応廃絶は0.5%)。前庭窓破裂には Hennebert’s sign 陽性が多い。めまいは長時間持続する事が多い

4.予後判定基準

1)前庭症状,所見:ともに比較的手術後早期から改善する。注視・頭位・頭位変換眼振,Hennebert’s sign も消失する。

2)聴覚症状,所見:補充現象,耳閉感は比較的早期に消失する。純音聴力に関しては,発症早期に手術をした症例で聴力改善が良好である。聴力改善の可能性があるのは発症3カ月以内の症例と,変動する聴力を呈する症例。

5.鑑別診断

メニエール病を始めとするあらゆる内耳疾患。

6.疾患についての説明

 外リンパ瘻の成因は鼓室,脳脊髄液圧の変化により,内耳窓を介して鼓室と内耳の間に,大きな圧差が生じるためである。しかし只,内耳窓膜の破裂を起こしても感音難聴は生ぜず,破裂した内耳窓膜は完全に治癒することが知られている。従って,外リンパ瘻の難聴,眩暈は内耳窓以外の内耳病変で説明されなければならない。内耳窓と膜迷路の病態を分類すると,
1)内耳窓の破裂だけで膜迷路の形態的変化がない例。これは殆ど症状のない外リンパ瘻に相当する。
2)内リンパ水腫を示すものはメニエール病と同じ症状を示す可能性があたる。
3)前庭膜の破綻は膜迷路の虚脱を引き起こす。これは不可逆性の高度感音難聴にあたる。
4)内耳窓の破裂が生じないにもかかわらず,膜迷路の虚脱が生ずる例。

文献

1)厚生省特定研究急性高度難聴班:昭和58年研究業績報告書,1984
2)深谷 卓,野村恭也,二木 隆:外リンパ瘻の病態生理.日耳鼻89:1772-1776,1986
3)深谷 卓,野村恭也:外リンパ瘻の臨床像―文献的考察―.耳喉57:271-278,1985
4)Fukaya T, Nomura Y : Experimental round window rupture with middle ear effusion. Acta Otolaryngol suppl 393 : 20-24, 1983
5)Nomura Y, Hara M : Experimental perilymphatic fistula. Am J Otolaryngol 7 : 267-275, 1986